“足跡”を見つめ直し、再構築した2wayベーシックジップトート。

“足跡”を見つめ直し、再構築した2wayベーシックジップトート。

公開日 : 2023/11/3

 

“足跡”を見つめ直し、再構築した
2wayベーシックジップトート。

 

新しさをことさら追求するでもなく、ブランドらしさに凝り固まるでもなく、いわば温故知新の想いと姿勢が、「2wayベーシックジップトート」には詰まっています。ある出来事をきっかけに生まれたこの新型バッグについて、またリニューアルした牛革「フィリップ」について、デザイナーの柳本に話を聞きました。

 

RENらしくも、新しい
「2wayベーシックジップトート」。

 

 

新型の「2wayベーシックジップトート」は、すっきりと洗練された印象のトート型。「RENらしさ」を感じられる反面、これまで好んで作ってきた徹底したミニマルさとは異なり、底マチ、ショルダーストラップ、ファスナー、内ポケットなどのディテール使いに、新鮮さも感じられます。

サイズは、A4サイズの書類やノートPC、ペットボトル、弁当箱、化粧ポーチ、本やヘッドホンなど、日常に必要な持ち物がたっぷり入って、1泊2日の旅行ならまかなえるほどの容量。しかもくったりとやわらかいため、くるっと丸めてキャリーケースに入れておくこともできます。

底マチがあり自立しますが、重いものを入れるときは、底板を入れるとさらに安定します。

 

口にファスナーが付いて、深さもあるので、電車や自転車に乗るときも安心。

 

ショルダーストラップは、しっかりと幅と厚みがある平手タイプ。肩にかけたときの安定感もひとしおです。

 

生地は、新しくなった牛革の「フィリップ」です。およそ2年前、風合いを見直すために一旦終了しましたが、ようやく、RENとして納得のいくレザーを制作することができました。牛革としては、初のオリジナルレザーです。

「2wayベーシックジップトート」には、インクブラックとアーモンドグレーの2色が使われています。

ところでこのバッグを見て、RENをよく知るあなたなら、ランチバッグワイドトートを連想するかもしれません。事実、バッグづくりの発端はそこだったと、デザイナーの柳本は振り返ります。

 

展示会から、直営店ベースのものづくりへ。

 

およそ15年前、ブランドとして初期の頃に作られたランチバッグですが、いまだに愛されています。デザイナーの柳本は、ここ1年ほど、そうした定番品にたびたび目が向くようになっているといいます。

「「とくに、40代なかばになってから。2、30代の頃に作った商品を振り返ることが多くなりました」

 

理由のひとつは、ものづくりへの向き合い方。コロナを経て、それまで通りに展示会を開催するのが難しくなったことで、直接、お客さまへ目を向けるようになりました。

「展示会ベースで進めていた頃は、どこか、型破りなデザインや飛び抜けた個性を求められていたところがあります。でも、直営店を改めて眺めてみると、そこには新作に押されず、定番になってきた商品たちがいまなお並んでいたんです」

 

そうした結果、特別に目を惹くデザインやバリエーションにことさらこだわらず、商品の型数も以前より減らすことに。そのぶん、一つひとつにこれまで以上の時間を費やすことができるようになりました。

 

定番バッグを見つめ直し、再度かたちづくる。

 

「いいバッグだな、と改めて感じられる定番品が多くあった」と柳本。同時に、「いまの自分ならこうつくる」という発想にも至りました。いまの自分なら、なにができるのか。それを試してみたくなったといいます。

そういう意味では、ランチバッグを見つめ直してできた商品が「2wayベーシックジップトート」です。ランチバッグは、ファスナー、裏地、ショルダーストラップなどのないシンプルなデザインですが、これはファスナーもショルダーストラップも付いていて、内ポケットも2つ。

「そうしたディテールを、以前よりきちんとデザインに昇華できるんじゃないかと思ったんです」

 

ショルダーストラップは肩掛けするのにぴったりの長さですが、なにより目指したのは、トートバッグとして手に提げたときの見え方でした。

 

「自分なら手持ちしたい。そう思ったので、手で提げたとき、ルックス的にストラップはどこまでの長さが許容範囲かを、かなり意識しました」

ファスナーは、RENのバッグづくりにおいて課題でした。革のくったり感を生かすために基本的には裏地をつけないので、ファスナーは構造的に難しい「直付け」に。とくに「2wayベーシックジップトート」では、おもて面から内ポケットも一緒に、それも縫い代が見えない状態で縫い付けなければなりません。

 

「裏地をつければ簡単です。でもそうしなかったのは、あまり“バッグ然”としていないデザインを目指したから。ファスナーは、あえて開けっぱなしにして、だらっとさせてもいい。使わなくても、金具の存在感があるのは格好いいと思うんです」

 

また、バッグ側面のサイドステッチは、同じく定番のワイドトートにも見られるディテール。内側の縫い代を隠す役割ですが、RENらしさを表すことにも、はたと気付いたのだといいます。

「ただ縫い代を隠すためにつけたステッチでしたが、いまではアイコンになっています。そこを見て、『ワイドトートだ』とイメージするお客さまも多いと思う。でも、ショルダーストラップもファスナーもついているし、ハンドルも四つ折りではなくがっしりとした幅広の平手。知っているようで知らない、そんなバランスを目指しました」

 

さらに理想に近づいた「フィリップ」。

 

使っている革は、新しくなった「フィリップ」。初めてオリジナルで制作した牛革として、再びRENのラインナップに加わりました。

表面は、以前と同じ、牛革にはもっともポピュラーな顔料型押し。均一で美しいシボも特徴です。

革づくりは、脂肪と毛を取り除いた段階からはじまっていますが、その下地の選定がいいとひと目見てわかったと柳本は言います。厚みは、本来1.8mmあるものを、仕上がりが重くなりすぎないよう1.4mmまで漉いてあること。顔料がよくのるように表面を丁寧に擦ってあること。床面が均一できめ細かいこと。どこを取っても、理屈的にきちんとつくられた下地だということがわかります。

「そうしたつくりのよさが、革の風合いや手触りにもしっかり表れています。ここまで自然にマットな質感、なかなか出せません。静かな深みがあって、タッチ感も信頼をおける。もちろん以前のフィリップもとてもいい革で、人気がありました。でも、さらに理想を追い求めた結果、この革に行き着いたんです」

新しさをことさら追求するでもなく、ブランドらしさに凝り固まるでもなく。そうしてできたこのバッグも、いつか振り返ったとき、定番として愛されていますように。次のものづくりのきっかけになり、それがまた多くのひとの日常に届きますように。

 


 

 

 


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