道具から見た、ものづくりの出発点。

道具から見た、ものづくりの出発点。

公開日:2023/09/15

 

RENのデザインアトリエでは、そう多くの“道具”は使われません。たとえばミシンも、通常革製品を作るなら最低2台必要とされるところ、RENには1台だけ。デザイナーの柳本もあけすけに、「道具には、まったくこだわりがない」と打ち明けるほど。
ただ、改めて話を聞いてみると、道具への頓着のなさが、RENのものづくりの根幹に深く根ざしていることがわかってきました。

 

こだわる必要がないくらい、
信頼が置ける。

 

カッターは、革を切るためのものと型紙を切るためのもの、それぞれ1本ずつ。どちらもOLFA製の業務用です。デザイナーの柳本は以前勤めていたメーカーで使っていたものを、そのまま、かれこれ20年以上。ほかの道具を試してみる機会もなかったのだと言います。

とくに年配の革職人のなかには、革専用の包丁を自分で研ぎながら使っているひとも多くいます。厚みのある革をざくざくと切るにはうってつけの道具ですが、RENでは分厚い革をほとんど扱わないので、革用カッター1本あればことたりるのです。

「研ぐ時間をとるくらいだったら、刃をパチンと折って切れ味を復活させて、すぐ使う。道具にこだわるのは趣味だと思ってるんです。これは仕事なので、安くて壊れないのがいい。中華の料理人みたいな感覚ですよね」

プロ用カッターなので、壊れないようにできている。で、安い。

「こだわる必要がないくらい、ちゃんとできた道具。信頼を置いています」

 

 

「完璧な商品」を作る必要が
ないからこそ。

 

デザイナーの仕事は「商品」を作ることではありません。

それはメーカーの職人で、その元となる「型紙」と「商品サンプル」をつくるのが、RENにおけるデザイナーの役割です。

 

 

▲写真は「シザーズバッグ シグス」の型紙です

「もし私がメーカーに勤める職人なら、いまより道具にこだわっていたはずです。いかに精確に、いかに迅速につくれるかが問われる仕事ですから。でも、私はいわば“型紙職人”。求められるのは完璧な商品をではなく、完璧な型紙をつくること。それを元に、メーカーの職人たちに伝わるようなサンプル商品を、たったひとつ作ればいいんです」

たとえ切り口がゆがんでいても、ミシンがガタガタでも、職人が補正してくれる。そのぶん、コミュニケーションや関係性の構築にしっかりと時間と労力を割く。

道具にこだわらないがゆえ、本当に大切な仕事に集中できるのです。

 

 

あえて制限する、ものづくりの可能性。

 

道具を揃えるほど、できることは増えていく。多くの技法を使えるようになる。でも、実はそうとも限らないと、柳本は考えています。

「削りたいんでしょうね。シンプルにしていきたい。やろうと思えば、道具をいろいろ用意するといろんな技法を使えるけど、無意識に制限を設けて、なんでもかんでも手を出さないで煮詰める。やれる範囲で濃くする。それが、RENのものづくりの姿勢かもしれません」

芯材やファスナーを極力用いないことが、だんだんと、RENらしいデザインディテールを育んできたように。

「最近新しくつくったバッグを眺めていると、技法は、20年前からさほど変化していないと感じます。でも、表現できることはまだまだある。制限があるからこそ、チャレンジできることがあるんです」

「道具にこだわらない」にあえて重きを置くことは、RENのものづくりの裾野まで、じつは地続きになっているようです。