公開日:2021/12/17
バラバラのパーツを組み合わせて、ひとつのものをつくりあげる。自らの手によって、自らの意思をもってかたちにする。同じパーツとは言え、皮の質感やシボの入り方、色ムラなどひとつひとつ異なっていて当然。またひもの通し方などによっても、仕上がりは変わってくる。つまり同じようでいて、他のどれにも似ていない、自分だけのものになる。
それこそが、ワークショップキットの醍醐味と言えるでしょう。またそれは、パッケージのビジュアルとも通じるところがあります。
パーツをグラフィカルな図形のように。
「ものを完全に、まんま絵に描くというのは不可能じゃないですか。三次元のものを二次元にするわけですから」
そう話すのは、ワークショップキットの包装紙ビジュアルを手がけてくれた、画家の有瀬龍介さん。京都の自然豊かな地で暮らし、ふだんは個展を中心に活動している氏。このようなパッケージのために作品を描き下ろすというのは、初めてだと言います。
「何かの絵を描くにおいて、あるていど自分なりの脚色が必要で、その方法を長い時間をかけて考えます。今回のプロジェクトを依頼いただいた時も、ワークショップキットの何を、どういうふうに落とし込めばいいか。これまでの経験値から、いろいろなパターンを推測していったんです」
こうした商品パッケージの場合、まず求められるのは「中身が何か」ということ。ワークショップキットの場合、できあがりの完成図があったほうが、ともすれば分かりやすいのかもしれません。しかしあえてそうはせず、パーツそのものを描くことにしたのです。
「見せていただいた時にパッとイメージが浮かんだのは、パーツがグラフィカルな図形のように配置されている絵だったんです」
そこで有瀬さんが思い出したのは、美大の受験でした。
「たとえば干物とラップと数字といった脈絡のないものを渡されて、これを画面内に構成して描きなさい、みたいな課題があるんです」
問われるのは、描画力や構成力。「当時、わりと得意でした」と言う有瀬さんは、これを表現の軸にしようと試みます。
確かに、改めてパーツを観察してみると、不思議な面白いかたちのものがたくさんあります。穴の空いた革に、止めるためのビス。革ひもは、きれいに並べるとストライプのようなにもなれば、くるくるっと巻くと円の重なりにもなる。そうしてひとつひとつに真摯なまなざしを向け、四角いフォーマットに慎重に構成していきます。
水彩と革の表情の、美しい親和性。
また「意図したことではなかったけれど、やってみるとうまくいった」というのが、水彩がもともと持つニュアンスのあるタッチが、まさに革の持つ表情ととても似ていたこと。
「そこに、リアリティがあったほうがいいと思うんです。ものがあくまで主役で、僕は引き立て役にすぎないというか。自分の作風がバンッと見えると、よくないような気もしてて」
「とはいえ、このさじ加減はコントロールできないところがあるので、本当にまずは描いてみて、だめならやり直すしかないんです」
そうした偶然性とテクニックがあいまり、じっと見つめていたくなる、深い味わいパッケージが生まれたのです。
「刷り上がったものを見た時、原画みたい!って思いました。絵の一部だけが見えて箱に巻かれている姿もいい感じで、すごく気に入ってます」
有瀬龍介(あるせりょうすけ)
1983年生まれ。京都在住。 2000年頃より活動をスタート。 手描きによる繊細なタッチを得意とし、古い本の挿絵、書物、身近にある植物・食物などから着想を得て制作した作品や、抽象画、墨絵など、テーマ毎に幅広い作品を生み出している。