公開日 : 2021/8/27
RENだけの、インディゴブルー。
生後6ヶ月前後の水牛が持つ素材の魅力をそのまま引き出した、「BABY BUFFALO / ベビーバッファロー」シリーズ。天然のキズや色ムラを隠さず、素の風合いを大切に仕上げたこの革は、やわらかくふっくらとした風合いが魅力です。そして、使うほどに増していく "艶" をじっくりと味わってもらいたい素材でもあります。
なかでも「indigo blue / インディゴブルー」は、RENだけの特別な色。
深みのある澄んだ青色は、光の加減によっては紫がかり、使うほどにその青色は変化していきます。
RENがこの色に出会ったのは、2017年。インディゴ染料で染めている革は、とてもめずらしかったといいます。水牛のやわらかくしなやかな風合い、そしてふっくらとした自然なシボが特徴的で、なによりも、その魅力は表情の変化にあります。
▲スタッフ愛用品、べビーバッファロー(indigo blue)の財布
使い込むほどに生まれる、艶
RENのスタッフにベビーバッファロー愛用者が多いことも、その魅力を物語っています。より深い青色へと変わっていくインディゴブルーの日々の表情。
使う人によって、艶感や色の濃淡も、人それぞれ。自分だけの色へと変わる過程は、使った人だけが知る楽しみのひとつです。
革の背景に触れること
わたしたちが日々、触れている「革」は商品としてカタチになった革たち。愛用しているベビーバッファローの財布には毎日触れるけれど、その革の背景に触れる機会はほとんどありません。
カタチを得る前の革はどんな工程を経て、RENのもとへと辿り着くのか。
RENだけの、インディゴブルーが出来上がるまでの風景を取材しました。
手がけているのは、埼玉県草加市にある伊藤産業さん。
約69年続く歴史あるタンナー工場です。一部の工程を除き、ベビーバッファローの染色から仕上げまでをお願いしています。“革の加工”と一口に言っても、その工程は細かく分けると約20工程以上。素材や仕上げ方によっても異なりますが、時間も手間もかかる素材であることは、その工程量の多さからもわかります。
伊藤産業さんが工場を構える草加市は「レザータウン」と呼ばれる、皮革産業が盛んな街。
皮革の加工過程に必要不可欠な「水」が確保できる、河川と地下水があること、そして革を取り引きする浅草が近いこと。かつて草加市は、その立地から皮革産業が栄えていきました。
加工に伴う排水問題や、海外からの安価な輸入品の増加。様々な要因から、現在その企業数は縮小しつつあるといいますが、職人さんの確かな手仕事と技術力、常に新しい発展を見据えながら皮革産業の発展に力を入れています。
白から、インディゴブルーへ
RENのベビーバッファローは、鞣しの工程を終えた「クラスト」と呼ばれる状態の革を染色することからはじまります。パキスタンから輸入し、選び抜かれたクラスト状態の革。
表面は白く、質感もフラットな表情。
この真っ白な状態から、染色、乾燥、様々な工程を経て、特別なインディゴブルーへと変化を遂げていくのです。
▲クラスト状態の革
まず、染色作業を行うのは「ドラム」という木製の機械。
直径2m近い円形の機械に、革とインディゴ染料を入れ、回転をかけて染めていきます。工場には大きなドラムがいくつも並び、それぞれ止まることなく動いている光景が印象的でした。
木製の「ドラム」による染色は創業当時から変わらない方法です。
ベビーバッファローは生後6ヵ月前後の牛革のため、表面積は成牛と比べると比較的小さな革。このドラムでは一度に約50枚の革の染色を行うことができます。
染料を投入するタイミングは、職人さんの経験と感覚が要。
革の状態や気候、そのタイミングを見極め、ドラムに染料が投入されます。温度管理からドラムの回転時間まで、すべて手作業に委ねられています。
およそ丸1日かけて染められた革はドラムの中で一晩寝かせ、翌日、職人さんの手によって引き上げられます。
染色後、一晩寝かせるのはインディゴ染料ならではの工程。他の染料と比べると、それは約2倍の作業時間。
インディゴブルーは、他の色よりも時間のかかる色なのです。
風と、酸化
工場の2階には、染色を終えた革が整然と並んでいました。
小学校の校舎と同じ様式で建てられたという伊藤産業さんの工場は、天井が高く、大きな窓から自然の風が通り抜けていきます。
この風が、インディゴブルーの重要な素材。
空気に触れることでインディゴ染料は酸化し、固着、そして色味の変化が起こります。
等間隔で風に揺れる、青く染まった革。
職人さんが一枚一枚、丁寧に手で革を伸ばし広げ、並べられていきました。この場所でしっかりと乾燥を行い、1日から2日。雨の日や、冬場の晴れ間のない気候、自然の風を利用するからこそ思い通りに仕上がるとは限りません。革の加工は、自然と隣り合わせにある作業でもあります。
熱を使い乾燥させることもありますが、熱を与えると革質は固くなり風合いが損なわれてしまう。革本来のやわらかな風合いを保つには、この自然の風でゆっくりと乾かすことがいちばん良いのだといいます。
▲カンガルーの革を干す様子
革っていうのは、
とても時間のかかるもの
「濡れた革を一枚一枚、手で広げて干していく。形も厚みも一枚一枚がまったく違うものだから、こういう作業はやはり、人の手でないと出来ないこと。革っていうのは、とても時間のかかるものなんです」
「とても時間のかかるもの」、風になびくインディゴブルーの革を眺めながら伊藤さんがつぶやいた、その一言が印象的でした。
機械には任せることの出来ない作業が、革の加工工程にはいくつもあります。仕上がりには、職人さんの手の感覚と、革への繊細な気遣いが欠かせないもの。伊藤産業さんでは現在11名の職人さんがその技術を守っています。
色への、揺るぎないこだわり
伊藤産業さんの強みは「色」へのこだわり。
RENがお願いしているインディゴブルーもそうですが、仕上げの目安となるカラーサンプルに対し、忠実に色を再現する技術力が強みです。
乾燥を終えた革の表面には、まだらに白い色ムラがあります。染色だけでは均一にならなかったムラや、カラーサンプルとの色味の差。この差を、インディゴ染料をもう一度吹きかけてることにより調整していきます。
仕上げ段階の染色を行うのは、大きなベルトコンベア。
上部に取り付けられた噴射機で、広げた革の表面に染料を薄く吹き付けます。噴射機からは回転しながらインディゴ染料が噴出し、表面に薄く色が重ねられていく。ベルトコンベアを進みながら、乾燥後の白い色ムラも均一な青色へと変わっていきます。
「あまりに色を重ねてしまうと、自然の表情が失われてしまう。インディゴ染料は、少しムラが残っていたほうが、その天然の革らしい風合いが活きてくるんです」
伊藤さんはそう話します。
染料を重ねることで、色ムラは消すことができる。けれど、革本来の表情をどれだけ活かすことができるのか。
カラーサンプルの再現性だけではなく、革本来の魅力を消してはしまわないこと。
伊藤産業さんは、そこに重きを置いています。そのためインディゴ染料の吹き付けは多くても2回。この日は、1回の吹き付けでRENのインディゴブルーが仕上がりました。
その革が持つ魅力を十分に理解しているからこそ、持つことのできる視点だと思いました。
自然体の美しさ
「表面が均一なこと」や「ムラがないこと」だけが、 美しさの基準ではないこと。
そんなところもRENが扱う革らしさに、寄り添う信念を感じました。自然のものだからこそのムラ、不均一性、そのちがいこそが美しさや面白さであること。仕上がった革を見ていると、そんなふうに感じます。
1枚の革が商品になるまでには、多くの時間と工程が必要です。その事実をわかっていても、はじめて目にする職人さんたちの手仕事の現場には、多くの気づきがありました。
「手作り」という一言では伝えきれない技術が、そこには詰まっています。
RENだけの特別な色が、使う人だけの特別な色になる。
そんなインディゴブルーを、楽しんでいただけたならうれしいです。
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