公開日:2025/04/18
〈interview〉
ものづくりの風景
Jacquard Works 後藤良子さん
街が秘めているエネルギーを蘇らせたい
関東圏のご出身で、幼少期は海外も含めて引っ越しと転校が多かったという後藤さん。小学校高学年の頃には「デザイナーになりたい」と思い始め、方眼紙に理想の間取り図を書いてよく遊んでいたそうです。

「方眼紙が大好きで。自分の小さな子ども部屋で、こうしたらここにこれが入るな、って家具をパズルのようにひたすら入れ替えたりしていました。1人で黙々と。大学受験の勉強の息抜きにも、『大学生になって1人暮らしをする家』を想像してモチベーションを上げたりして。結局、大学入学時は実家から通ったのですが、その後1人暮らしを経て、大学院生になってからは友人3人とシェアハウスして暮らしていました」(後藤さん)
大学では建築デザインと都市デザインを学び、さまざまな街で文化や住む人の違いに刺激を受け育った経験から、まちづくりに関する仕事を志すようになった後藤さん。現在は株式会社URBANWORKSの代表を務め、行政の都市計画や民間企業の都市開発におけるコンサルティングや戦略まで幅広く携わっています。その中でも特に、地域の産業や経済が深く結びついた街のあり方に関心を強めていき、個別の企業支援なども多くおこなってきました。

そんな後藤さんが桐生を訪れ、SUSAI(須裁株式会社)3代目である須永社長の相談に乗るようになったのは約5年前のこと。社長を質問攻めにしながら織物の作業工程を整理していき、全体像が理解できたところでようやく、機織りの事業や商流のどこに課題があるのかが見えてきたといいます。
ところで、SUSAIとの出会いから間もなくしてファクトリーブランド「Jacquard Works」を立ち上げ、東京と群馬の二拠点生活をするほどに後藤さんをのめり込ませた理由は、一体何だったのでしょう。
「桐生って、外に頼らず、この街の中だけで織物を仕上げることができる希少な産地なんです。地域全体に職人さんがたくさんいて、分業制で、街ぐるみで繊維産業を成り立たせている。昔はそんな街がもっとあったらしいのですが、やはりだんだん減ってきていて。私自身はいわゆる住宅街で育ってきましたし、『街に根付いた産業がある』というのは初めての体感で、それがすごく魅力的に思えたんです」(後藤さん)

しかし、繊維の街として1300年の歴史を誇る桐生でも、店を畳む方が増えてきているのが現状。職人さんの高齢化や後継者不足は大きな課題の1つです。
「街全体に根付いている産業をもう一度組み立て直すことができれば、きっとうまくエネルギーを蘇らせることができる。まだまだ手を尽くせていませんが、分業制で成り立っているものづくりからこそ、みんなで手を取り合っていいものを継承していけたらと思っています」(後藤さん)
取材当日は、普段なかなか遭遇する機会が少ない貴重な作業工程に立ち合わせていただくことができました。チャキチャキと小気味いい機械音に囲まれながら、指で糸をよってつなぎ、ジャカード板を取り替える。職人さんの無駄のない所作を夢中でカメラにおさめました。



ジャカード織を日常的に使ってもらえたら
Jacquard Worksの製品に使っている生地は、もともとあったアーカイブからヒントを得たものもあれば、新たにイメージを持ち寄って製作したものや、イラストレーターさんの絵を織物で再現したものなど多種多様。「より多くの方に興味を持ってもらえれば」という想いから、業界の垣根を超えたコラボレーションにも積極的です。


また、これまではECサイトでの販売が主でしたが、2024年秋から全国各地でのPOP UP出店も本格的にスタートしました。「これまで、遠方にお住まいの方々にも買っていただいていたので、直接お客様とコミュニケーションを取ってみたいと思っていた」という後藤さん。桐生の織物工場に併設したアトリエショップも定期的に一般開放して、SUSAIのファクトリーブランドの製品や、手芸をされる方々に向けて生地の販売などをおこなっているそうです。
遠くから見ると華やかで、近くで見て触れると繊細で。表情豊かなジャカード織の魅力をぜひ皆さんも体感してみてください。


-PROFILE-
Jacquard Works[ジャカード・ワークス]
ジャカード織物の機屋・SUSAIのファクトリーブランドとして2022年に誕生。ジャカード織物ならではの糸1本1本が織りなす豊かな表現や、凹凸感のある風合いはそのままに、カジュアルに日常使いできる製品を作り続けています。
URL:https://shop.jacquard-works.jp/
後藤良子
Jacquard Worksディレクター、株式会社URBANWORKS代表取締役。関東近郊のまちづくりプロジェクトに多く携わる傍ら、地域産業や経済が深く結びついた街のあり方に強い関心を持ち、その中でスタートアップ等の企業支援にも関わっています。SUSAI(須裁株式会社)には2020年頃から参画し、2022年にファクトリーブランドJacquard Worksを立ち上げました。
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