タンナー取材 ピッグスキン”トワル ”の製作現場から<前編>@福島化学工業 (2018.7.12更新)

タンナー取材 ピッグスキン”トワル ”の製作現場から<前編>@福島化学工業 (2018.7.12更新)

「ピッグスキン・トワル は日本を代表する
豚革の産地・東京都墨田区で生まれました」

世界中に輸出されている日本の豚革のほとんどは、東京で作られていることをご存知でしょうか?RENの定番ピッグスキンも原皮は国産、鞣しも国内で行うことにこだわっており、ピッグスキンシリーズは全て日本が誇る豚革の産地・東京で作られています。

ここは、墨田区にあるタンナー工場・福島化学工業(以下、福島化学さん)。豚革の鞣し加工を得意とする福島化学さんは、RENのオリジナルピッグスキンを手がけるタンナーの一つです。この秋から、RENの定番『TOILE/トワル』シリーズに新色が加わることになったことをきっかけに、福島化学さんにトワル の生産現場を見学させていただくことになり、ここで改めて素材作りの背景について知る機会をいただきました。


RENのピッグスキンといえば、素上げの”ハリー”やクラッキング加工の”クラック”、起毛した”スモーク”の他、革らしさをあえて抑えて帆布のような硬さにこだわり仕上げられた”トワル “など、風合い、質感、雰囲気にそれぞれ独特な特徴を持つオリジナルの素材が揃います。REN製品は1枚のレザーから余す部位をなるべく少なくするため、使える部位は最適なパーツに取り分け、職人たちが丁寧に製品に仕上げており、1本1本に重さや風合いに個体差があるのはそのためで、接客の中でもお客様にお伝えしている大切な部分です。ただ、バッグや財布になった後は、その製品に関わってきた人たちの時間や人数、その時の気候、失敗談、職人とスタッフのやりとりなどなど、私たちスタッフが直接お客様へお話ししない限り誰も知ることはありません。作り手としてはその裏側もできる限りお客様にお伝えしたいと思っています。


REN製品はほとんどの工程が人の手によって作られており、その工程の一つにタンナーが行う革作りの現場があります。今回のタンナー取材を通じて私たちが感じたこと、ものづくりの現場で日々奮闘する職人たちの知られざる苦労やREN製品との関わりについて記録として残すと同時に、製品ができるまでの背景の一部を切り取ってRENのものづくりについてお伝えできる機会になればと思います。


今回工場を案内してくださったのは、長年RENのレザーを手がけている若手タンナー職人の一人、Aさん。工場は今まさにピッグスキン・トワルの色のせ作業に取り掛かるところでした。いくつもある革台の上には、すでに色のせのための”下処理”というものを終えたピッグスキンが積み重なり、スプレー噴射マシーンで色づけされる手前。下処理された革を目の前に、タンナー職人Aさんがここまでにかかる工夫や苦労をお話くださいました。

「革に色をのせるための下処理にかかる作業は、
通常の2倍の時間を費やす」

RENスタッフが店頭でお客様にレザーのご説明するとき、トワル は同じピッグスキンを使った素上げのハリーなどと異なり”通常の2倍の工程を経て完成する”とお話ししています。その2倍の工程というのが、革に色(顔料)をのせる(付ける)ための下地づくりに費やす時間のことを意味しています。

通常、革の銀面(おもて面)に白などの塗料をのせる場合、傷の部分には色がのらないため、はじめに傷隠しなどの下処理をする必要があります。
豚革は銀面にもともとの傷が多いため、RENのトワルは傷の目立ちにくい床面(うら面)に塗料をのせています。もともと毛羽立っている床面に塗料をのせるためには、しっかりと毛羽立ちを抑えて”面”を整える必要があり、それは傷隠しの処理を施す作業よりもかなり手間のかかるものだと職人Aさんが教えてくださいました。


職人Aさん:
「ボサボサの上に色(塗料)はのらないんですよ。
まず面をつくらないと。面を作るために薬品を調合して作った
糊みたいなものを塗るんです。
それで熱と圧力を加えて毛羽立ちをぎゅっと潰します。
しかも繊維層によっては、
例えば革の縁(えん)の方は繊維が粗く
下処理をしても色をのせた時に
ボサボサが戻る場合があってなかなか色がのりにくい。
だから色をのせるために
何回も何回も下処理しないといけないんですよ。」


もともとトワルは、豚革の銀面を裏地として生かし、床面にクラッキング加工を施して革の味を楽しんでもらおうというスタッフのアイディアから作られたピッグスキン・クラックの延長として、福島化学さんに素材づくりをお願いして生まれたものです。


“銀面を裏地としてご提案する”という発想はお客様の共感をいただき、改良を重ねて今ではリピーターさんもつくほどRENでは定番の素材になりました。しかし、この素材は他の革の生産に比べて下処理に時間がかかりすぎることや、天候によって作業がストップしてしまうことが多く納期のズレが生じるなど、素材づくりが始まった当初からタンナー泣かせの革とも言えたのです。


職人Aさん:
「下処理をした後は革を干すんですけど、
湿気が多いと干している間に水分を吸って
表面に空気が入ってしまう。
それにアイロンをかけると革がボコボコに歪んでしまうし、
湿気があるとアイロンの熱で
塗料がくっついてしまうんですよ。
そうなると今度はくっついたところを
剥がすにもまたボコボコになってしまう。
だから晴れている日を選ばないといけないんです。


下処理さえできれば、
色をのせるのは天気も関係なくできるので
あとは一気に色を乗せていきます。」


私たちスタッフの感覚では、単純に、”乾かす都合で”という大きなくくりで雨の日が重なると革の生産が滞り、タンナーさんからの革の仕上がり納期が遅れてしまうんだという感覚でしたが、厳密には、”何度も繰り返し行われる細かな工程の中で天候に左右されてしまうタイミングがある”ということだったのです。


下処理までの間に時間がかかるのは手間と天候もそうですが、湿度も大きく関わるので、作業ができる日というのは職人の感覚できちんと判断しなければいけません。


ちなみに、下処理の工程は全て職人が手作業で1回に200枚行うのですが、1枚1枚手作業で下地を塗る上に、下処理に関われる技術を持つ人も工場内では限られているため、任された職人は他の作業と並行しながらトワルも進めています。

「下地づくりの工程は、
1日1ターンしかできない」

下地づくりというのは、①(ハケ塗りをするための)糊を塗る、②熱圧力で面を潰す、③(色を乗せるための)ハケ塗りをする、④熱圧力で面を潰す、⑤丸一日乾かすという作業を、塗料がしっかりとのせられるように面が整うまで繰り返し繰り返し行われ、やっと完成します。その作業は、①〜⑤までの工程を1日1ターンしかできません。順調にできても2週間は時間を要しますが、毎日晴れているとも限らないため、それ以上に時間がかかる場合もあります。私たちスタッフは、お客様へ製品を紹介してお届けする立場。ものづくりの背景にあるそういった点を一人一人理解しておかなければいけないと改めて感じました。


【下処理を終えて乾かす様子】

「できればトワルは
やりたくない(笑)」

福島化学さんとしては、梅雨の時期は時間がかかりすぎて作業ができないため、私たちの追加オーダーも受けにくいとのことでした。

「(下処理は)本当に天気に左右されるし、
工程も多いのに生産効率が良くないんです。
だから、できればやりたくない。笑」
と、職人Aさんは正直に一言。笑


(でも、スタッフからもお客様からもこんなに愛され続けているトワルなので、ぜひぜひ今後ともお願いします!と、お伝えしました。)

【下処理を終えた豚革】

「天候と日々向き合いながら
1枚のレザーを仕上げる」

私たちの無理難題にもいとも簡単にお応えいただいているかのように思っていたピッグスキン・トワル 。今回の取材を通し、積み上げてきた経験と職人技を駆使していることはもちろん、タンナーにとっては切っても切り離せないあらゆる”天候”とも向き合いながら、日々1枚のレザーの仕上がりに向き合っているのです。

>>後編へつづく。