〈interview〉ものづくりの風景 ー パン屋・粉花(浅草)

〈interview〉ものづくりの風景 ー パン屋・粉花(浅草)

公開日:2024/06/06

素材そのままの良さを活かした味

粉花(このはな)のパンに使われているのは、レーズンと水だけで発酵させた自家製酵母と、北海道産の小麦粉、そして沖縄産の塩が中心。材料はなるべく自分たちの近くで育てられた物を使いたいという想いから、可能な限り国産を選び、素材そのままの味を生かしたシンプルなものづくりを大切にしています。当初はカンパーニュなどシンプルなパンが中心のお店にするイメージもあったそうですが、お客様からいただいたリクエストを形にするうちに、みんなが食べ慣れている食パンや看板商品の丸パンなど少しずつ種類が増えていったとのこと。現在パンは15種類ほど作っているそうです。

恵さん「最初は食べやすい丸パンを気に入って通っていただいたお客様が、少しずつハード系のパンにもチャレンジして、今ではカンパーニュもおいしく召し上がってくださっている、というパターンも多いんです。パンの新たなおいしさを知るきっかけになれていたら嬉しいですね」

 

 

上手に焼けなかったから夢中になった

子どもの頃からお菓子を焼くのが好きだったという真由美さん。しかし自分のお店を持ちたいと考えたことは無く、むしろ人前に出るのがずっと苦手だったのだそうです。そんな真由美さんをパンの虜にしたのは、「天然酵母でパンが焼けるらしいよ」という恵さんの一言がきっかけでした。

恵さん「以前私は薬剤師として働いていたのですが、唯一の楽しみは退勤後に本屋に寄る時間でした。いつものように本棚を眺めていたら、たまたま天然酵母に関する本を見かけたんです。化学の実験のようでおもしろそうだなと思ってまずは自分で試してみたのですが、どうにも上手くいかなくて」

真由美さん「それで私も酵母を起こすところから始めてみたのですが、最初から上手にできたわけではなかったんです。周りに天然酵母のパン作りをしている人なんていなかったので、とにかく自分で試行錯誤していたら、恵さんより私の方が夢中になってしまって。毎日のように焼き続けては家族に食べてもらっていました」

パンを食べることが好きで、天然酵母でパンが膨らんだ時点である程度の満足感を抱いていたという恵さん。一方で真由美さんは普段あまりパンを食べてこなかったからこそ、初歩の段階で達成感に満たされるような感覚でもなく、食べることがゴールでもなく、ただただ焼き続けることに熱中していたのだとか。

そんな真由美さんに転機を運んだのは、初めて利用した整体院での出会いだったとか。初対面の整体師さんからなぜかパン教室の講師を打診され、一度は断ったものの、「やってもいないのにできるはずがないって言っていたら何も変わらないのでは?」と返された一言が腑に落ち、思い切って引き受けることにしたそうです。

真真由美さん「いざオーブンを開けて焼けたパンが見えた瞬間、生徒さんから歓声が上がったんです。今までは自分がただ楽しいからやっていたけど、その時初めて、パンが焼けるのってこんなに嬉しいことなんだなって思えて。そこから一気に、こんなに幸せな気持ちになれるなら毎日やりたい。毎日やるにはパン屋になるしかない!って」

 

新たな出会いを楽しみに

パン教室の熱冷めやらぬその日のうちにSNSに投稿したところ、大家さんのご子息である同級生から連絡があり、あっという間に物件が決定。その半年後にはお店が完成。とんとん拍子の展開に初めはお店のシャッターを上げるのが怖くて仕方なかったそうですが、オープンから3年が経った頃、雑誌掲載をきっかけに遠方からも足を運んでくださるお客様が増えていきました。

真由美さん「パンを焼くまでの自分ってものすごく薄暗い世界で生きていたんです。あの整体院での出会いが無かったら今の自分はいないし、このお店が無かったら出会えなかったかもしれない人が周りにたくさんいるので、やってよかったと心から思います」

恵さん「オープンから毎日のように通って見守ってくださっていた女性がいるのですが、ある日『もう大丈夫そうね』と言われまして。本当にありがたかったですね。生活と商売が直結している町ならではのカルチャーだと思うのですが、そうやってみんながごく当たり前に誰かを気にかけたり応援したりと、あたたかい循環の中で粉花を育んでいただいたという実感があって。だからもし近所で誰かが新しくお店を開いたら、今度は私たちがそこに足を運びたい。そんな気持ちを自然と抱いています」

恵さん「常連さんも私たちも同じだけ年齢を重ねてきたわけで、だんだん健康の話題が増えてきましたね。今お店は週4日営業にしていて、早い日はお昼頃に売り切れ、遅い日でも16時には閉店して明るいうちに帰っています。楽しく続けるためにちゃんと休む、余計なことをやりすぎない、というのはずっと心掛けていますね」

真由美さん「私はオンオフの明確な切り替えは無く、頭の中ではずっとお店のことを考えていますね。これからも日々おいしいパンを作りながら、粉花で起こる出来事や新しい出会いを楽しんでいきたいです」

今回のインタビュー中、お店の外まで漏れていた賑やかな声を聞きつけたご近所さんがひょっこりご来店される場面も。お二人がこの町で15年間築いてきた関係性を垣間見たような、あたたかい気持ちになりました。

 

 

-PROFILE-

粉花(このはな)
2008年に浅草観音裏でオープン。オーガニックレーズンとお水だけで育てた酵母と国産小麦でパンを焼き、地元浅草の日常に寄り添う人気店。販売は10:30〜売り切れ次第終了。

台東区浅草3-25-6 1階
定休:日・月・火・祝

 

 

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