〈interview〉ものづくりの風景 ー STUDIO.ZOK 滝上玄野さん

〈interview〉ものづくりの風景 ー STUDIO.ZOK 滝上玄野さん

公開日:2024/12/10

 

〈interview〉

ものづくりの風景
STUDIO.ZOK 滝上玄野さん

離れたことで気付いた、陶芸の魅力

愛知県といえば、常滑焼や瀬戸焼を筆頭にやきものが盛んな地域というイメージがあります。滝上さんは、県内での引っ越しは何度かあったものの生まれも育ちも愛知で、ご両親とも陶芸家という稀有なバックグラウンドの持ち主。一見すると、現在の職を選ばれたのは自然なことのように思えるのですが、学生時代の滝上さんは「陶芸家にはならないと決めていた」のだとか。

「子どもながらに両親の手伝いをするうちに、陶芸がだんだん嫌になってしまったんですよね。でもものづくり自体は好きだったので、高校ではデザイン科でひと通り基礎を学んで、大学ではグラフィックデザインを専攻しました。将来もグラフィックの世界で食べていくつもりだったんですけどね」

大学卒業後はデザイナーとして印刷会社に入社。しかし自分が表現したいことと、仕事として求められることとの間で葛藤し、退職することに。そして実家に戻りご両親の作品に触れるうちに、主に広告として世に出るグラフィックデザインとの違いや、土モノならではの魅力を再認識し、原点回帰を決意したのだそうです。

「陶芸って、作品自体に価値がついてお客様の元に届けられるんですよね。改めてその面白さを実感したと同時に、陶芸とグラフィックデザインにも触れてきた自分にしかできない表現を大切にしたいなと思ったので、STUDIO.ZOKとして新たにチャレンジしてみようと」

 

植物を愛する気持ちに応えたかった

「様々なライフスタイルに溶け込めるようなアイテムを作っていきたい」と考えた滝上さん。STUDIO.ZOKとして最初に作ったのは、陶製の額縁でした。その後も敢えて器には手を出さず、一輪挿し、指輪置き、アクセサリー、植木鉢などジャンルを問わず制作を続けていました。

そして記事前編でも紹介したように、独立から2年ほど経った頃、植え込み作家さんや農家さんとの出会いをきっかけに、植物を陶土で再現する「陶植(とうしょく)」シリーズの制作が始まりました。「自分自身は植物を育てるのが苦手で、枯らしてしまうことが長年悩みだった」という滝上さん。植物系のイベント出展を通じて、サボテンに魅了された人の中にも、実は自分と同じような悩みを持つ人が少なくないことを体感していました。

「いくら植物が好きでも、やっぱり一度枯らしてしまうと、それ以降なかなか手を伸ばせなくなってしまうんですよね。生き物ですし。僕もそのジレンマにはすごく共感するところがあったので、自分にできることはあるだろうかと考えていたら、ふと、サボテンの造形美と陶芸は相性が良いのではないかと思いついて。早速試作を始めました」

一口にサボテンと言っても、およそ2,000種類以上あるとされている沼の深い植物。その形状を再現するとなると、やはり最初は実物を手元に置いて観察するのかと想像していたのですが、「農家さんのところでじっくり観察させてもらって、その記憶と写真を頼りに具現化しています。僕が育てると枯らしてしまうので…」という衝撃の答えが返ってきました。型は使用せず、指先やヘラなどを使い分けながら、手作業で一つひとつ成形しているのだそうです。

また素焼きの段階で上手くいっても、その後の本焼きで割れてしまい、窯の前でしばらく立ち尽くすこともあったり無かったり…。作品に応じて粘土をブレンドし、土と水という天然素材を扱いながら、生き物を題材に向き合い続けるという難しさは計り知れません。

「大きくなるほど難易度が増すので、『よくぞご無事で…』と、完成した際には愛着もひとしおなんです。でも自分が作った物を誰かが気に入ってくださることは何より嬉しいので、どの作品も愛情を込めて送り出しています」

 

暮らしや街に溶け込むものづくりを

陶植を作り始めて10年。今ではサボテンに限らず、自然界で生まれたおもしろいフォルムを見つけると、「これはどうやって作ろうかな?」と製法を考えるクセがついてしまったという滝上さん。これまでは陶芸をより身近に、より気軽に手に取ってもらえるようにという想いから、家庭に置いていただくことをイメージした作品を中心に展開してきました。

「とてもありがたいことに、最近はサイズの大きい作品をリクエストしていただくことも増えました。僕自身も置き場所や題材にこだわりすぎず、商業施設やホテルなど、より多くの人の目に触れる場所にも置きたいと思ってもらえるような、街の中にも溶け込めるような作品づくりを目指したいと思っています」

そんな話をしながら、粘土の塊をあっという間にサボテンに変えてしまった滝上さん。物腰の柔らかい印象はそのままに、土を触っている間だけは顔つきが違ったように見えました。熟練技を目の前で見学させていただいただけでなく、取材後には自家製の窯焼きピザまで振る舞ってくださり、滝上さんファンの私たちにとってご褒美のようなひとときとなりました。

 

-PROFILE-

STUDIO.ZOK
2012年に滝上玄野が設立したブランド。ライフスタイルに合う陶製のアイテムを中心にデザイン・製作。幅広い媒体を土で表現することで、土の持つ可能性を広げていくことをコンセプトに活動中。

https://shop.studio-zok.com/
https://www.instagram.com/studio_zok

 

 

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STUDIO.ZOK 滝上玄野さん

 

 


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