あのひと、にあう革〜中川正子さんに「スクエアショルダー」〜

あのひと、にあう革〜中川正子さんに「スクエアショルダー」〜

公開日 : 2025/11/04

 

〈interview〉

あのひと、にあう革。
〜中川正子さんに「スクエアショルダー」〜

 

「乗り換えの多い旅のような人生で、あなたは今、何を思っていますか?」

ギャラリースペースの古い窓から、質感のある光がほの差す雨の午前、私たちは岡山にいました。理由は、写真家の中川正子さんに会いに行くため。

 

私たちRENと中川さんのご縁は、遡ること半年ほど前。ある撮影でスタッフが持っていたスクエアショルダーバッグを見て「素敵」と思ってくださったことから。「じゃあぜひ、使ってみていただこう」となりました。

しばらく経って使い心地をうかがってみると、そのタイミングがまさに人生の転換点で、それはバッグの存在と、いみじくも結び合わされているようでした。

 

 

ギャラリーの運営を終えて、今。

大学生の頃、留学先のアメリカで写真に恋をして以来、フリーランスのフォトグラファーとして国内外のほうぼうを飛びまわりながら、きら星のごとく活躍してきた中川さん。

東日本大震災を機に、思いもよらなかった運命に導かれて岡山へ移住。子育てをしながら、東京との二拠点生活を開始。さらにコロナ禍が起きた2020年、岡山に家を購入すると同時に、アトリエとギャラリースペース「GATHER」を運営。撮影や執筆など表現活動をしながら、さまざまな作り手たちと暮らす人をつなぐ役目も果たしてきました。

「ただ実はここももう、今月で終わりなんです」

ただ、そうつぶやく中川さんの表情はなんだかとてもすっきりとしていて、すでに心は次の旅への準備を始めているようでした。

「まさに今は、やりたいことがあふれて、あふれて。これからどうしていきたいかを、まずリスト化しようって思ってたぐらいなんです。今もいろいろ変わっているところで、来週お話ししたら、また違うことを言ってるかもしれない」

 

 

やっぱり私は、表現するほうが向いてる。

「私はもともと『いつでもどこでも行けちゃう』というスタンスだったので、家を買うことで『いったんはここなんだな』と腹を決める感覚がありました」

さらにギャラリーを始めたのは『場所を持ちたい』という、純粋なインスピレーションから。

「でも、それは悪くないなと。ずっとこの土地が好きな人間が一時的にお邪魔している、外国人のような気持ちでいたけれど、移住して11年かかって、ようやく自分の居場所という感覚が生まれたんですよね。だけど運営してみて、自分の強みや弱みがくっきり見えた3年でした。やっぱり私はサポート役よりも、表現するほうが向いてる。自分自身で写真を撮ったり、文章を書いたり、アウトプットする方が得意なんだって気づいたんです」

これまで、多くの著作を持つ中川さん。2024年春には初めて文章中心のエッセイ「みずのした」(くも3)を上梓しました。

「以前から写真展をやると、来てくださる方が『写真も好きだけど文章も好き』と言ってくれる人が多かったんですよね。ただ最初は『写真だけでは足りない』という、写真家としての敗北かもしれないと思って、聞き流してたんです。

でも時代は変わって、とくに若い世代はひとつのことだけに固執していない人も多いですよね。だからこの本を出したことで、自分の中で『もういいんじゃない?』と、許可を出せるようになった。かつて追いかけていた写真家の像とはずれているかもしれないけど、それでいい、と思えるようになったんです」

あわせて旅のかたちも、徐々に肩の力が抜けてきているようです。

「前は仕事のロケが多かったから、たくさんの機材とともに、が基本のスタイル。でも最近はプライベートの旅を、意識して増やしていて。友達に会うためだけに2泊しちゃおうとか、そんな気持ちになってきました」

 

そうして気付かされたのは「気軽に訪ねると、相手も気軽に迎えてくれる」ということ。

「仕事の隙間しかなかった時はみんな気を遣ってくれて、余分な話をするよりは、今の一番のトピックを話するくらいで。それが、たっぷり時間を取って会うことで、『実はね』という深い話が出てくることもあって。今まで忙しすぎて、そういう瞬間をどれだけ取りこぼしてきたかと思うと、ぞっとする。これまでの人生を悔やむ気持ちもあるけど、気付いたのなら、これからやればいいと思って」

 

バッグの中のスタメンは、ハンカチがわりの手拭い2枚と鍵、財布、メガネ、リップ、ポーチの中の文具と本、そして(コード付きの)イヤホン。自転車にも乗る中川さんは、アンクルバンドをストラップに。

 

旅の目的が変われば、おのずと携えるものも変わります。スクエアショルダーのようなバッグをひょいと斜めがけし、カメラは1台だけ、三脚なども持たずに出かける。そんな「軽い手荷物の旅」ができるようになりました。

「このバッグのいいところは、メンズっぽくシャープな感じで、とにかくバンバン放り込めるところ。体に沿うデザインで、斜めがけした時の感覚が気持ちよくて、ポケットも使いやすい。想像以上に素材がやわらかいのも好きです」

 

また旅に限らず、日常のさまざまなワードローブに合わせられるところもうれしい、と言ってくださいました。

「岡山で子育てをしている時は本当に生活の場だから、動きやすくてアクティブな服装が多かったです。自転車で爆走する時もあったりして(笑)。ただ東京に行く時やレセプションなどでは、少しおしゃれにすることもあって。そういうどっちの場面でも使えるデザインなのが気に入ってます」

 

それにね、と中川さん。

「以前からドレッシーな服装に、くたっとしたバッグを合わせるのが好きなんです。90年代のジュリア・ロバーツのような、セットアップにカジュアルなバッグを合わせるスタイルに憧れて。きちんとした服装に、このバッグで少し外す、というコーディネートがいいなって」

 

 

「ちゃんと生きる」ということ。

私は今後、何をしていきたいのだろう。どんな写真を撮っていきたいのだろう。そう心をめぐらせた時、思い至ったことがありました。

「とにかく今は、個人的な視点を強めていきたい。例えば、写真を撮るために旅をするのではなく、まず旅を楽しんで、その延長線上で自然と写真や文章が生まれるような。まっとうな順番にしたいと思って」

 

京都のお店の写真集の仕事は、クライアントワークでありながらもパーソナルな要素が強く「応援したい」という気持ちが入った作品に。


すべてのまんなかにすえるのは「ちゃんと生きる」ということ。

「それは立派なことではなく、自分のサイズでいい。なんとなくやらないで、ごく当たり前のことを大事にすること。まず人として生きることを大切にしたいんです」

 

 

 

ーPROFILEー

中川正子さん

人の営みを映す自然な表情、日々のひかり、そして静謐なランドスケープを得意とする。雑誌・広告・書籍など多様な媒体で発表を重ねてきた。2011年3月、東京より岡山へ拠点を移す。
主な仕事として、写真集『新世界』『IMMIGRANTS』『ダレオド』『Rippling』『AN ORDINARY DAY』、作家・桜木紫乃との共作による写真絵本『彼女たち』、京都・清水焼「TOKINOHA」のビジュアルワークなどがある。
また執筆活動にも精力的で、2024年4月には初のエッセイ集『みずのした』を刊行。 現在、第2作の執筆中。

instagram : @masakonakagawa

 


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