RENがBAREをバリでつくる理由。(前編)

RENがBAREをバリでつくる理由。(前編)

公開日:2024/08/27

 

〈interview〉

RENがBAREをバリでつくる理由

 

もちろん、わかっている。

それでも、いくどでも。心に刻みつけておきたいのは、RENのバッグに使われているレザーはすべて、もとは「動物の皮を剥いで」できていること。

やわらかくて、軽くて、丈夫。バッグの素材として、この上ない魅力が詰まったBARE(ベアー)。もととなっているのは、やぎの皮です。

 

 

やぎの命を受け取り、美しくつくり替える。


つくられているのは、インドネシアのバリ。現地在住のパートナー濵田さんは、創業初期からBAREの開発に携わり、16年近く一緒にものづくりを続けてきた、とても大切な方。濵田さんなしでは現在のBAREはもちろん、RENすら今日まで続けて来れなかったかもしれません。

「そうですね、やぎ皮って……何て言うんでしょう」

一瞬言い淀んだのち、濵田さんは意を決したように言いました。

「食用ではない動物って、原皮から革にするまでの処理がひどいところもあるんですよ。でも、やぎは違います。インドネシアではやぎの肉はもちろん、骨までスープにして使います。日本にも、くじらをヒゲまで使う文化がありますよね。それと同じで、私たちが命のすべてをちゃんと受け取って、美しくつくり替えて、次の世代に渡す。そのためにも素敵なバッグをつくりたいという思いが、みんなの中にあるんです」

 

その「みんな」とは、どんな人たちなのか。そして、ものづくりに対する真摯で誠実な、彼女なりの「思い」とは?

とても、知りたくなりました。

 

確認につぐ確認、から生まれること。


まずお伝えしたいのは、原皮をなめし、動物の「皮」を「革」にするタンナーさんについて。「現在BAREの革の生産をしている会社は、世界のトップブランドを手掛ける会社で、ファッションウィークにも同行する、とても優秀な方たちなんです。しかも、どこかのブランドの残りを買っているわけでなく、私たちだけの配合なので、けっこう手間のかかる仕事をさせてしまっていて」

その配合も4回ほどやりとりをし、できるだけ色落ちがなく、耐久性が生まれるように、と試行錯誤し、ようやくできたものだそう。

 

 

「なので、入ってくるたびに素晴らしい革だなと思うんですけど、その中でもやっぱり傷があったり、銀面(きめ細かさ)が違ったり。あとは合う革というのがありまして。たとえばリュックみたいな重さが必要なものに、薄くてきれいな革を使ってしまうと、柔らかすぎて合わなかったり」

それをまずは一枚一枚、確認します。

「目でも確認するんですけど、手も使って、革の厚さや張り感、シボの大きさ、傷などの状態を判断し、5種に分けるんです」

 

 

そこからは「型取り」へ。裁断機を使ってしまえば、より早くはできるでしょう。一般的には、ほぼこのやり方です。ただそれだと革のよさを活かして、最高の状態ではつくれない。その思いから

「創業当初から専属スタッフが手作業で型取りをしていましたが、自分がやった方がより良いものが出来ると思い、ここ3年くらい私がすべて型をとっているんです」

 

 

一枚一枚、じっくり革と対話しながら「どうすれば、一番かわいく、きれいにできるだろう」と思いめぐらせ、革の銀面に型紙をあて、銀ペンを使って革に線を引く。それを女性の職人さんが裁断し、職人長がそれらを集め、色目やシボを合わせたセットをつくり、その後マネージャーとともにチェック。OKとなれば職人を呼んで、またみんなでチェック。「このあと縫製に入ってからの検品もあるので、合わせるとチェックが10回くらいになりますね」と笑う濵田さん。

確認につぐ確認。「どうして、そこまで」とつぶやいてしまうほど、それはあまりにも念を入れた進め方なのでした。

「結局、工業製品のプラスチックのように均一ではないですし、そこまでちゃんとやってあげるのとやってあげないとでは、色はもちろん、強度も美しさも、全然違う。クオリティが3〜4割は違う感じになるんです」

とあるバッグメーカーの営業さんに見せたところ「ここまで大変なことをやって、そんな値段で売ってるの!?」と、たいそう驚かれたとか。

 

 

パズルのように、何回も何回も。


今回の新色は、とりわけの労苦がありました。

「ライラックっぽいグレーなんですけれども、そもそも薄い色は下地がすごく見えてしまう、かつ色ムラが出てしまうので一番難しくて、5年くらい止めてたんですよ。ただ今回、あの素晴らしいタンナーさんとの取引を2年以上させていただいていて、RENのデザイナーと『やっぱり薄い色やりたいね』となったんです」

タンナーのBAREに対する理解が深まり、クオリティーを安定させることができたことで、以前からやってみたかった薄い色に挑戦してみよう、となったのです。

 

▲新色”greige”の革サンプル


理想は、全ての色を均一にすることです。ただ実現するのは本当に難しく、400枚ほど納品されたきた革は、背中が黒く上がってしまったり、色むらがあったり。「人間でもそうですけど、色がちょっとずつ違う。あとは硬いところと柔らかいところで色の入りぐあいも違ったりする。ただこれをバッグにしたとき、濃いところと薄いところがあると、それだけでも安く見えちゃうんですね。正直、本当に仕事量がかかるんですけど、私が型をとって、職人さんが裁断して。それはもう、毎日パズルをやっているような感じで、何回も何回もやってました」

そうして、ようやくできあがり「実際に自分で検品しながら、ちょっと感動しましたね」

 

 

「本当にそうだね。私たちの仕事は、責任があるね」


布とは異なり、革はひとつでも傷が入ると取り返しがつきません。そんなシビアなものづくりだけに、何か問題が起きたとき、濵田さんが職人さんたちに、たびたび話すことがあります

「このバッグを自分のお金を使ってプレゼントしたいのか、ということ。生産者の目線で言ったら、毎日丁寧に仕事して疲れてるし、納期とか、何かと理由があるじゃないですか。でもお客様からしたら、それはすごく大切な1点であって。たとえばクリスマスとかお誕生日で彼女にプレゼントしたり、お母さんがお子さんの大学の入学祝いに渡したりするもの。なのに良い状態でなかったり、すぐ壊れちゃったりしたらすごく悲しいよね、と。なので自分がプレゼントしたいって思えるような、素敵なバッグをつくりましょうって伝えてます」

それに対する反応は?「本当にそうだね。私たちの仕事は、責任があるね。一生懸命やろうねって。けっこう傷つくくらいに。みんな、やさしいんですよ。基本的にすごくやさしい」

 

 

バッグは、チームとしての努力と技術の結晶です。それは皮をなめす職人さんしかり、もちろんやぎの命もしかり。

「縫製職人歴が一番長い人が27年、一番短い人で11年。職人さんは他の工場なら工場長になれるレベルの優秀な人達。少数精鋭でやっていて、ひとりでも欠けたら、いいものはできない。自分が間違うとみんなに迷惑をかけるし、革もだめにしてしまう。そんな気持ちで、みなさん丁寧に仕事をやってくれています」

 

ところで。そんなチームをひとりの人間にたとえるならば「私は脳みそ」だという濵田さんのこと、もっと知りたくなりました。

「私、実は父がHONDAの技術者で。ちっちゃい頃から『お父さんの仕事は1mm以下の精度が求められる世界で、精密さがすごく大切なんだよ』とよく言われていたんですよ」

ということは……。この物語の続きは後編で。

 

 

 


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